背景
制御システムやニューラルネットワークを実機に実装する際には、連続時間または連続値の信号を離散値で表現する必要があります。この離散化で発生する量子化誤差はシステム性能を低下させるため、誤差を特定の周波数帯に移動させるノイズシェーピングや動的量子化が研究されています。最適動的量子化器(Optimal Dynamic Quantizer; ODQ)は対象プラントの正確な数理モデルを用いて量子化器を高次フィルタで設計するが、モデル誤差やフィルタ次数増大が実用上の課題でした。さらに、ニューラルネットワークのモデル圧縮でも低ビット重みへの量子化が求められます。
目的
- プラントモデルに依存しないデータ駆動型動的量子化器の設計手法を開発し、ODQと同等の性能を低次元で実現すること。
- ニューラルネットワークや制御器の軽量化のために、学習データやシステム特性に基づくノイズシェーピング量子化を開発し、低ビット量子化でも性能を保つこと。
- 量子化手法の性能評価を効率化するため、トポロジカルデータ解析(TDA)など解析指標を導入すること。
アプローチ
- データ駆動型動的量子化器(D4Q):入力–出力データのみを用いてノイズシェーピングフィルタのパラメータを最適化する手法を提案した。最適化問題の目的関数には出力と量子化誤差の振幅を含め、プラントモデルを必要としないため建造が困難なシステムにも適用できる。
- ニューラルネットワークのノイズシェーピング量子化:ニューラルネットワークの重みを低ビットで表現するために、学習データや重み分布を考慮した誤差拡散フィルタを設計する方法を提案した。旅行者巡回問題を利用して拡散フィルタを設計し、誤差を有効な周波数領域へ移動させる。さらに、TDA(persistent homology)を用いて量子化による性能劣化を視覚的に評価する手法も提案している。
- ORB‑SLAM3の性能評価:視覚 SLAM のメモリ削減のために画像の量子化を適用し、静的量子化法と動的な誤差拡散量子化法を比較した。動的量子化は画像の階調を保持し、SLAM の位置推定精度を維持しながらメモリを削減できることを確認した。
- ソフトウェア実装:ノイズシェーピング量子化器設計を支援する Python ライブラリ NQLib を開発し、実機制御での動的量子化器の性能を検証した。
主な成果
- データ駆動型動的量子化器(D4Q)は、プラントモデルが未知でもODQと同等の性能を示すことが数値実験および実機実験により示され、従来法より低次かつ実装容易であることが確認された。にある実機検証では、モータ制御系のようなモデル化が難しい対象でも高精度な制御が実現できた。
- ニューラルネットワーク重みの学習データ調和型ノイズシェーピングでは、動的量子化を使うことで8‑bit 以下の量子化でも分類性能を維持でき、TDA による解析から低次元でもトポロジカル特性が保持されることが示された。
- ORB‑SLAM3 に誤差拡散量子化を適用すると、静的量子化よりも階調を維持しつつメモリを約半分に削減でき、位置推定精度の低下も抑えられた。
- 研究成果を総括したソフトウェア NQLib を公開し、量子化器設計の実用化を促進している。
関連業績(代表例)
| 年 | 業績タイトル | 備考 |
|---|---|---|
| 2026 | Data‑driven design of dynamic quantizers applicable to non‑minimum phase systems | モデルフリーで非最小位相システムに適用可能な動的量子化器の提案。 |
| 2026 | D4Q: Data‑Driven Design of Dynamic Quantizer – Proposal of Method and Experimental Validation – | データ駆動型設計法の詳細および実機検証。 |
| 2025 | 動的量子化器のデータ駆動型設計の実機検証 | モータ制御系への実装実験。 |
| 2025 | A Model‑Tuning Approach to Switching‑type Dynamic Quantizer for Nonlinear Systems | 非線形システム向けの切替型動的量子化器のモデル調整法。 |
| 2025 | Performance evaluation of ORB‑SLAM3 with quantized images | 動的量子化によるSLAM性能評価。 |
| 2025 | A TDA‑based performance analysis for neural networks with low‑bit weights | TDA を用いた量子化ニューラルネットワークの性能分析。 |
| 2024 | ニューラルネットの軽量化のための学習データ調和型ノイズシェーピング量子化 | 学習データに基づく誤差拡散フィルタの設計。 |
| 2024 | NQLib: A Python Library for Noise‑shaping Quantizer Synthesis | ノイズシェーピング量子化器設計のソフトウェア。 |
| 2019以降 | 多数の論文・国際会議発表 | イベントトリガや PSO に基づく量子化器設計、進化計算による動的量子化器など。 |